製作風景-【棕櫚箒】鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】鬼毛箒の修理

2013年5月に製作しお届けした鬼毛箒の「柄付け(えづけ)の意匠」部分の修理と、穂先の棕櫚繊維のメンテナンスをしました。
修理前後の写真を撮影し忘れて、修理終盤に撮影したこの写真しかありません。
お届け後、毎日ご愛用とのことでした。ここ数年で黒竹や棕櫚繊維が乾燥したのか想定以上に縮んだようで、持ち手の黒竹に巻いた銅線に緩みが出ていました。元々、見えない所に竹のクサビを打ち込んで締めてあったのですが、さらに複数のクサビを足して銅線の緩みをなくしました。白く点々と写っているのが竹のクサビです。

柄付けの意匠というのは、持ち手の黒竹やヒノキと棕櫚繊維の境い目に糸を数センチ巻いて仕上げた部分のことです。昔から箒店や棕櫚箒職人ごとに固有のデザインで糸や銅線を巻いて仕上げ、どこで作られた棕櫚箒か一目で分かる銘のかわりにもしていました。

この部分の銅線が一か所ほどけ、すぐそばまで巻いていた麻糸もずれはじめていました。銅線がほどけた部分は不幸中の幸いで、棕櫚箒そのものの強度にはほとんど影響がない箇所でした。また万一、柄付けの意匠の銅線や糸がすべてほどけても棕櫚箒の形が崩れたり機能がすぐに失われることのないようにあらかじめ製作しています。しかし見た目はすいぶん悪くなってしまいます。乾燥で緩みが出た銅線部分に、掃き掃除の際に物が当たってずれやすくなっていたのかもしれません。

近所のお客様であれば銅線1本を締め直す修繕はすぐにできたのですが、あいにく遠方のお客様だったため往復送料を考えると修理費用がずいぶん高くつくような気がして、当面お客様ご自身でほどけた銅線をペンチでとめるか、いっそ完全に取り払うかして様子をみながら使っていただけないかと相談してしばらく時間が経っていました。

ずっと気になっていたところ、関東で開催された和歌山県主催のイベントのゲストによんでいただく機会がありましたので、出張修理させていただきました。営業時間中の店舗の一角を修理のために快く使わせてくださったもやい工藝の皆さま、心よりお礼申し上げます。この修理経験は今後の製作に生かせるとてもよい勉強になりました。ご協力くださった皆さまありがとうございました。