製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理

鬼毛箒(他社製)の修理をしました。棕櫚鬼毛9玉長柄箒(タイシ箒)の竹柄が虫食いのため折れてしまったとのことで、竹柄の差し替えができないかとのご相談でした。画像1枚目のように、棕櫚箒を分解したバラバラの棕櫚の玉(束)の状態で送られてきました。このようにバラバラになってしまった状態でも、一部または大部分が欠損した状態でも、多くの場合は修理・復元は可能です。

製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理

玉(束)の縛り方・作り方の特徴から、かつて隣町の和歌山県海南市の職人さんが製作した棕櫚箒だと分かりました(数年前に廃業されています)ので、出来るだけその職人さんが作っておられた元々の意匠を忠実に再現し修理していくことにしました。
画像を見ていただきますと、束の内側の繊維の色がやや異なっており、明るい茶色なのが分かると思います。この色の明るい繊維は棕櫚繊維ではなくパームヤシの繊維です。
今では棕櫚箒に棕櫚以外の繊維を使う事など考えられないことですが、師匠から「問屋向けの卸売の箒を専門に作る職人の中には、単価を下げるために、表面は棕櫚で内部に棕櫚繊維のかわりにパーム繊維を入れた鬼毛箒(タイシ箒)を作っていた人もいる。パームは棕櫚の色そっくりに染めて入れる場合もあって、素人目にはまず分からないが、掃き心地が悪くなったり耐久年数が落ちたりするので良くない」という話を聞いていました。パーム繊維が使われている鬼毛箒の修理は今回で3本目ですので、もしかすると、かつてかなりの数が流通していたのかもしれません。
パーム繊維の方が棕櫚繊維よりも太いので、一見長持ちししそうに見えるのですが実際はそうではなくて、使ううちにパーム繊維は棕櫚繊維よりも摩耗しやすく、柔らかくなってクセが付いたり、棕櫚繊維よりも先に劣化してしまいます。

製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理

通常の修理では、劣化が少なくまだまだ使える素材は出来るだけ再利用して生かしますが、今回の場合、長い目で見るとパームヤシの繊維が入ったままでは良くありません。内側に使われているパームヤシの繊維はすべて取り除き、新しい棕櫚繊維と差し替え修理します。
また今回のように竹柄の差し替えの場合は、単に竹柄を付け替えるだけでは修理としては不十分です。棕櫚箒の玉(束)を竹柄から分解した時点で、玉を縛っている銅線が緩んでしまうので、そのまま再度組み立ててしまうと箒に緩みやゆがみができ、今度は棕櫚繊維が抜け落ちやすくなり、やがて箒がバラバラに壊れてしまう可能性が高くなります。
完全分解して新しい銅線で固く縛りなおした玉(束)を組み合わせて修理をしていきます。

製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理

今回の竹柄差し替えの修繕も、全体の緩みや傷みの修繕・洗浄などメンテナンスをして、新品同様とまではいきませんが、さらに長くご愛用いただけるように完全分解修理をさせていただきました。
他社製の棕櫚箒は、師匠から受け継いだ製法とは作りや素材の使い方が異なるため、色々と注意が必要です。
下の2枚は修理完了後の画像です。

製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理
製作風景-【棕櫚箒】他社製の鬼毛箒の修理

修理の際は可能な限り、その棕櫚箒を製作された職人さんがこしらえた元々の意匠を尊重し再現するように努めます。破損がひどく元々の姿が分からない場合は、色々な棕櫚箒の資料を元に推測して修繕する場合もありますし、元々の作りや棕櫚素材が弱いと判断した場合は、見た目にはなるべく分からないように、より強い棕櫚材や構造に作り替える場合もあります。

製作風景-【準備】コウガイ削り
製作風景-【準備】コウガイ削り

今日は修理途中で、竹柄に通すコウガイ(竹串)が足りないことに気付き、コウガイ削りもしました。