コウガイは棕櫚箒の長柄箒・片手箒・一部の荒神箒に使う太い竹串です。持ち手・柄(え)に真横にあけた穴に通したコウガイに、小さい棕櫚の玉(束)を順番に刺して柄(え)に留めていき、1本の棕櫚箒は作られています。
弟子入り直後「コウガイとはどういう意味ですか?漢字でどう書きますか?」と師匠にたずねたところ、「昔から皆コウガイとよんでいるけどなぜかは知らない。竹串とは言わないし他の呼び方はない。漢字ではなくカタカナでコウガイと書く」とのことで、しばらくはなぜこの竹串のことを「コウガイ」とよぶのか分かりませんでした。
その後2、3年経ったある日、昔は日本髪を結うのに簪(かんざし)と笄(こうがい)を使っていたと知りました。髪飾りとして挿すのが簪(かんざし)で、まとめた髪を固定して留める長い棒状のものが笄(こうがい)であること、笄(こうがい)は結った髪の毛を貫通させて挿すので簪(かんざし)と違って棒の先が髪の毛の左右に飛び出した格好になるということを知りました。
棕櫚繊維は明るい茶色~黒味がかった濃い茶色をした細い繊維ですので、きっと棕櫚箒の玉を、結った髪の毛に見立てて、棕櫚箒を真横に貫通する長い竹串なので「笄(コウガイ)」とよんだのに違いない!と独りで納得しました。伝統的な仕事の中には思いがけず古い言葉が残っていることがありますので、おそらく「笄(こうがい)」という言葉が普通に通じた時代から職人がこの竹串のことをコウガイとよんでいて、時代が進んで漢字や意味は分からなくなってしまっても、言葉だけがずっと残ってきたのだと思います。
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