同時製作中のうち2本目の【棕櫚箒】鬼毛(タイシ)7玉長柄箒の残りの玉(束)をこしらえるために、原料の「未選別の棕櫚繊維(=タイシ)」を整え毛先を揃える下準備。
鬼毛箒(タイシ箒)は、未選別の棕櫚繊維をそのまま束ねる製法が一般的ですが、近年入手できる棕櫚繊維はそのままでは余りにも不揃いなので穂先が揃わず、完成した箒の見た目や掃き心地が悪くなるだけでなく、完成した箒の品質にバラつき・個体差が出る心配がありました。そこで当工房では下準備として従来製法に一工程を増やし、まずクシで棕櫚繊維の長さを整え、手指で毛先を揃えるなどした質の異なる繊維を用意しています。
午後からは工房を離れ、町内で数十年前に内職で棕櫚やパームのタワシを巻いていたという女性をたずねました。昔、こちら和歌山県紀美野町内ではタワシを巻く内職が盛んで、各家庭でタワシを巻く道具(画像2枚目の手動の機械)を使って主に女性たちが一生懸命タワシを作っていました。かつてタワシ巻きの内職を経験したという女性は数年前まで町内にたくさんいたので、そのうち話を聞こうと思っているうちに機会を逃し、近隣にいた方々は高齢となり話を聞けなくなってしまいました。ようやく一人ご紹介いただき、お話をうかがい実際に棕櫚束子を1個作っていただきました。
画像2枚目のようなタワシを巻く機械や、この機械で作る現在よく見かける丸くコロンとした形の「亀の子束子」は、約100年程前に東京の亀の子束子西尾商店さんが発明したものです(私の苗字も西尾ですが、まったくの偶然です)。それ以前はタワシといえば棒束子(キリワラ)の事を指していました。この機械の発明後、棕櫚やパーム製の亀の子束子の生産については、棕櫚の産地だったこちら和歌山県の野上谷地域が担っていたそうで、その後に海外生産が盛んになり国内生産量は減少したものの、そういった経緯で現在でも当地域では複数の会社や商店で束子が作られているのだそうです。
私は数年前に近所の方から古い機械を1台もらったので、それ以降、自宅で使う棕櫚束子は見よう見まねで自分で作るようになりました(この画像の機械は私のではなくお借りした同型機械です)。私が正式に習得したのは棕櫚箒作りのみで、棕櫚タワシ作りについてはまったくの素人です。今日まで完全な独学で、プロの作り方をちゃんと見た事も、正式に習ったこともありませんでした。今日は実際にタワシを巻くところをやってみせていただいたので、夜にもう一度自分でもタワシを作ってみました。短く切り揃えた棕櫚繊維を針金ではさみ、ハンドルを回して棒状にし、それをくるっと丸めてペンチでとめると、見慣れた棕櫚束子の形になります。
プロのタワシ職人さんでしたら、棕櫚繊維を棒状にした後で散髪機(?)などとよばれる毛を刈り揃える機械に通したりといった工程が様々あるそうなのですが、うちには機械や設備がありませんので、鋏で毛を整えて完成とします。今日は今までで一番綺麗に出来ました。
そしてお話をうかがう中で、私がもらったタワシを巻く機械はどうやら不完全で、旧式で劣化もしているうえに、足りない部品があるということが分かりました。今後機会があれば修理した方が良いようです。今回はとりあえず家にある物で代用して作りました。