棕櫚で出来ている物、「棕櫚の葉で作ったハエ叩き」をご紹介します。棕櫚のハエ叩きは和歌山県だけの特別な物ではなく、昔は全国各地・各家庭で自作するなどしていたようで、よくご存知だったり作った事のある方も多いかもしれません。
私はこの仕事に就くまで、棕櫚葉のハエ叩きの存在自体を知りませんでした。
10年近く前に、町内の棕櫚葉のハエ叩き作りの名人(本業は棕櫚紐職人のNさん)から「会心の出来」だという1本を譲り受け、簡素で愛らしい見た目だけでなく、市販のプラスチックや金網のハエ叩きより優れた威力・性能だった事に驚いて以降、我が家の必需品になりました。その後、作り方を見る機会のないまま名人Nさんは亡くなってしまいました。数年経つといただいたハエ叩きが傷んできたので、ワークショップで他の職人さんから基本の作り方を習い、Nさんから聞いていたノウハウと貰ったハエ叩きをモデルにして毎年数本作るようになりました。山暮らしなので虫が多く、特にアブ・ハチ・ムカデ・ゴキブリなど素早くて大きな虫退治に欠かせません。
休憩時間の30分程で今年使う分のハエ叩き数本を作ります。棕櫚葉のハエ叩き作りには、1~2年前に刈り取って乾燥させておいた棕櫚葉を使います。棕櫚木から新葉を刈り取り、余分な部分をカットし、葉を細く裂いて1~2年乾燥させ、糸でくくって形を整えただけの簡単な作りです。しかし、こういったシンプルな物は奥が深いものです。名人Nさんのハエ叩きは近所でも評判だったそうで、確かに他の人が作ったものより格段に使いやすく、狙った虫はほぼ一撃で仕留める事が出来ました。ポイントは、ハエ叩きに適した形状の棕櫚葉を選ぶこと。Nさんは毎年、棕櫚木の新葉が開く様子を観察し、刈り取る何日も前に沢山の葉の中からハエ叩きに適した葉を見極め、最適な開き具合に成長したところでその葉だけを刈り取って作っていたそうです。Nさんからは「どんなに簡単な物でも何でも、作るならとことんこだわらないとダメ」と教わりました。うちのハエたたきはNさんのと比べるとまだまだです。
→追記:2019年9月15日「棕櫚葉のハエ叩きの材料下準備」について記事を書きました。