鬼毛(タイシ)9玉長柄箒のパーツとなる棕櫚の玉(束)を作ります。意匠は、蝋引き麻糸(黒褐色)と銅線の組み合わせ。画像は、自作のクシで短い棕櫚繊維を取り除き、整えているところです。
町内の国道370号(高野山へ続く高野西街道)は夕方から片側交互通行できるようになりました(4t車以下)。先日の台風により一部通行止めになっていましたが、通れるようになり良かったです。
以下、一昨日から掲載している地元に伝わる「しゅろの歌」の続きをご紹介します。昨日は棕櫚皮の使い道についてでした。今日は棕櫚皮以外の部位、葉や茎の用途を紹介している部分です。
(「しゅろの歌」その3。数回に分けてご紹介します)
「しゅろの歌」 田中芳男(続きの一部分)
毛皮と共に 取りいるる その元なるは 耳皮ぞ
湯にしてたたき 裂き(さき)あげて
荒き箒と 荒束子(あらたわし) 毛よりも強き(こわき) 用いあり
耳皮上の 柄をとりて 葉つきのままに 用になば
埃はたきや 蠅たたき また団扇(うちわ)にも 用いらる
作るも安く 値も安し(柳野源之助著「和歌山県の棕梠栽培」大正11刊)
参考文献:展示解説集第17集 海南地方における「家庭用品産業の歩み」-棕梠加工業から合成繊維加工業へ-(平成10年10月1日 海南市立歴史民俗資料館)、
その他、地元の方々にいただいた「しゅろの歌」の手書きやコピーの資料
参考までに以下は私なりの訳文です。
棕櫚皮を収穫するとき 皮の端には「耳皮」が付いています
棕櫚皮をとったあとの耳皮を茹でて 叩き 繊維状にしっかりほぐして
硬く荒い耳皮繊維の箒やタワシを作ります
棕櫚皮で作る箒・タワシよりも 耳皮繊維製は毛が太く硬く荒く これはまた用途があります
耳皮の上に付いている茎を 葉が付いたままとり その葉の部分を編むと
埃はたきや 蠅たたき また団扇にもなります
簡単に作れて 価格も安いです—-(その4に続く)
「耳皮」は地元では「バチ」ともいいます。
棒状の形や長さが太鼓のバチに似ているから「バチ」というのだと聞いています。
棕櫚の木は、一枚の葉から一本の長い茎が伸びて幹に付いています。
茎の根元には棕櫚皮がくっついていて、その棕櫚皮が幹をぐるりと巻いて茎と葉を支えています。
茎と幹が接するあたりの、茎と棕櫚皮が一体化している部分は特に肉厚で硬くなっていて、その部分のことを「耳皮」または「バチ」とよんでいます。
「耳皮」「バチ」を切り落とすと、1枚の棕櫚皮がとれます。
棕櫚皮をとった後には同じ数の硬い「耳皮」「バチ」が残ります。
これを集めて、軒下などに常設していた大釜で茹で、柔らかくなったら取り出し、よく叩きほぐして繊維状にして乾かします。
棕櫚木からとれる素材の中では「棕櫚皮」が一番値打ちがあった部位で、対して、耳皮を茹でて取り出した繊維は安価でした。
耳皮繊維は棕櫚皮繊維よりも太く硬いのですが、強度や耐久性が劣る(切れやすく棕櫚皮繊維ほど長持ちしない)からです。
詩の中で「毛よりも強き(こわき)」とありますが、これを「毛よりも強き(つよき)」と読むと、意味を間違えてしまいます。「こわい」とは「硬い」という意味で使われる言葉で、例えば、こわい毛=硬い毛・剛毛。「こわい」は硬く太い様子・ゴワゴワしているといったニュアンスのある言葉です。
耳皮繊維が棕櫚皮繊維よりも「強い(つよい)」と読んでしまうと、耳皮繊維の方が上質なのかなと勘違いしてしまいますが、この詩は「耳皮繊維は棕櫚皮繊維よりも硬く太いが、荒くてもろい。硬く荒い安価な箒や束子の材料に使います」と伝えています。
耳皮繊維から作った箒やたわしは安価な荒物として需要があった時代もありましたが、箒やたわしの形はしているものの、長持ちしない使いにくい製品だったそうです。
戦後しばらくして製品の質も求められる時代になると、耳皮繊維を使った棕櫚製品は需要がなくなり作られなくなったそうです。