製作風景-【準備】棕櫚鬼毛の毛ごしらえ
製作風景-【準備】棕櫚鬼毛の毛ごしらえ

常時ストックしている、本鬼毛箒と鬼毛(タイシ)箒用の原料繊維が残り僅かとなり、天候も良かったため朝から棕櫚繊維(タイシ)の下準備「毛ごしらえ」をしました。

入荷したままの棕櫚繊維は、梱包時の縛り癖が付き棕櫚粉など汚れも付着しているため、そのままでは棕櫚箒作りに使えません。水に浸け汚れを落とすとともに、毛捌き機(けさばきき)のローラーに通してまっすぐに伸ばし整え、裁断し自然乾燥させます。短時間で乾燥させるため天日干ししています。

毛ごしらえを終えた棕櫚繊維(タイシ)は、このまま使うと鬼毛箒(タイシ箒)の原料に、またこの中に僅かに含まれる本物の鬼毛(本鬼毛・タチケ)だけを繊維1本ずつ手選別して抜き集めれば本鬼毛箒の原料になります。

「本鬼毛」とは、1枚の棕櫚皮から多くて10本前後とれるといわれる、特別太く硬く真っ直ぐで丈夫な棕櫚繊維だけの事です。本鬼毛は他の多くの棕櫚繊維と混在しているため、人が手で1本ずつ抜き集めなければ、本鬼毛だけを使った棕櫚製品を作る事は出来ません。昔、この地域で棕櫚産業が盛んだった頃には、農閑期の内職などとして棕櫚皮から本鬼毛を抜き集める仕事がありましたが、数十年前に棕櫚産業の衰退と共に途絶えています。それでも師匠の代(私が弟子として働いた2011年代頃まで)にはまだ、町内の棕櫚紐製造業者さんが製造過程で抜き集めた本鬼毛がごく稀に少量入荷していました(1束が直径約10cmの量で、数年に1束~多くて1年に1束程度)。しかし間もなくその業者さんが廃業され、もう本鬼毛の流通は望めなくなりました。

師匠は本鬼毛箒に強い誇りを持っていましたが、常時作りたくても本鬼毛が入荷した際に僅かな本数しか製作する事ができず、晩年には、もう本鬼毛箒は原料がないので製作出来ないと語るようになりました。その姿を見て、私はどうしても将来も本鬼毛箒を作り続けたいと考えるようになりました。