引き続き【棕櫚箒】棕櫚皮9玉長柄箒作りなど皮箒の製作。意匠は銅線と蝋引き麻糸巻き(リネン色)の組み合わせ。

製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒
製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒
製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒
製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒

以下、10月23日から7回に分けて掲載してきた地元に伝わる「しゅろの歌」を、改めてひとつながりにまとめて掲載します。

「しゅろの歌」 田中芳男

比類希なる 棕櫚の木や み国のものと なるうえは
蒔きて植え替え 育て上げ 十年たてば 用だちて
それよりい出す 産物は まず第一に 毛皮にて
年々(としどし)取れて 用いあり そのあらましを あげるなら

大繩小縄 細縄に 箒 敷物 靴ぬぐい
叩き(はたき)に 束子(たわし)に 下駄鼻緒
あるいは黒き 染め縄に
庭の植木や 垣根にも 飾り結びて 使うなり
濡れて腐らぬ ものぞかし

毛皮と共に 取りいるる その元なるは 耳皮ぞ
湯にしてたたき 裂き(さき)あげて
荒き箒と 荒束子(あらたわし) 毛よりも強き(こわき) 用いあり
耳皮上の 柄をとりて 葉つきのままに 用になば
埃はたきや 蠅たたき また団扇(うちわ)にも 用いらる
作るも安く 値も安し

葉のみをもちて 作るなら 箒 叩き(はたき)に 庭箒
若葉を晒し(さらし) 作るなら
鼻緒に草履(ぞうり) 下駄表 帽子 笠ひも 真田紐(さなだひも)
なおよく晒す(さらす) 糸筋は 籐(とう) 麻(あさ)ごとき 用いあり

根ばかりにても 用いなば 花ものつくる 添え木にも
文字書くときの 仮枠に いろいろ用い あるぞかし
花は毎年 萌え出でて 粟粒ごとき 実柄をなす
雌木と雄木とが あるなれば 雄花の若き ものを取り
それを湯にして 味を付け 酒のさかなに なるぞかし

幹は素直に よく伸びて 割れず腐らぬ ものなれば
釣鐘つきの 棒となり 手摺(てすり) 床縁(とこぶち) 床柱
芯をくり抜き 縦樋や 割りて受け樋 おもしろし
また切り貼りて 額縁や 杖や 傘の柄 簾(れん)になる
輪切りとなして 土瓶敷(どびんしき) ロクロ大工の 刳(く)りものや
またばい菌の 侵したる 幹の内部の 斑文は
地図に等しき 模様あり

並の棕櫚の木 その他に
唐棕櫚または ちゃぼ棕櫚は 葉つまりなれば 見えよろし
庭木鉢植え もてはやし 並の棕櫚より 価(あたい)あり
世の諺に 言えるよう 棕櫚を千本 植えるなら
家の宝と なるぞかし 富のもといと なるぞかし

(柳野源之助著「和歌山県の棕梠栽培」大正11刊)

参考文献:展示解説集第17集 海南地方における「家庭用品産業の歩み」-棕梠加工業から合成繊維加工業へ-(平成10年10月1日 海南市立歴史民俗資料館)、
その他、地元の方々にいただいた「しゅろの歌」の手書きやコピーの資料

少し補足を。詩には出ていない地元でよく見られた棕櫚の使い道をふたつご紹介します。
ひとつは棕櫚皮を使った「水漉し(みずこし)」。山水などから砂や不純物を濾過するためのフィルター装置のことで、昔から棕櫚皮を使って作られていました。
この地域は山間地なので山水を生活用水に使う場合が多く、今でもあちこちで「水漉しにするから棕櫚皮を分けてけてほしい」とか「棕櫚の水漉しを使っている」と耳にしますので、昔から当たり前のように使われてきた濾過装置なのだと思います。実は私はまだ実際に見たことがなく、詳しく仕組みが知りたいもののひとつです。
「水漉し」濾過装置は棕櫚皮だけで作るのではなく、棕櫚皮を重ねた層と小石や砂や炭などの層を重ねて作るのだそうです。棕櫚皮は網・メッシュの代わりの役割をしているようです。水漉しに使う棕櫚皮は、棕櫚皮箒の原料皮とは切り方が少し異なり、「しゅろの歌」にも出てくる皮の両端の硬い「耳皮=バチ」を僅かに残して切ったものを使いました。バチは茎の延長部分にあたる茶色の硬く肉厚な組織で、木の上では棕櫚皮と一体になってくっついています。

もうひとつの使い道は、棕櫚の葉の籠(かご)です。籠といっても長く使う丈夫なものではなく、ちょっと物を運ぶための簡易的なものがよく作られていたようです。
棕櫚葉の籠をいつ作りどう使うかというと、例えば畑や山で作物や山菜を収穫したものの、持ち帰るための籠や布が手元にない場合に、近くの棕櫚葉を採って、その場で葉1~2枚を組み合わせて編み、籠として使ったそうです。家まで物を運ぶのに使った後はたいてい捨てていたそうですが、棕櫚葉は大きくて厚みがありしっかりしているので、案外重いものにも使えて重宝したそうです。籠作りに使うのは「しゅろの歌」に出てくる「新葉の晒し葉(さらしば)」ではなく、大きく開いた採りたての新鮮な青葉です。