あらかじめ分類した棕櫚皮を手の届くところに山積みにして【棕櫚箒】棕櫚皮9玉長柄箒の玉作り。棕櫚皮は1枚1枚の個体差が大きく見極めが難しいこともあり、品質はどうか仕上りはどうか慎重に確認しながら製作を進めます。

製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒
製作風景-【棕櫚箒】棕櫚皮長柄箒

以下、10月23日から少しずつ掲載している地元に伝わる「しゅろの歌」の続きをご紹介します。今日は最後の部分です。

(「しゅろの歌」その7。数回に分けてご紹介します)

「しゅろの歌」 田中芳男(続きの一部分から最後まで)

並の棕櫚の木 その他に
唐棕櫚または ちゃぼ棕櫚は 葉つまりなれば 見えよろし
庭木鉢植え もてはやし 並の棕櫚より 価(あたい)あり
世の諺に 言えるよう 棕櫚を千本 植えるなら
家の宝と なるぞかし 富のもといと なるぞかし

(柳野源之助著「和歌山県の棕梠栽培」大正11刊)

参考文献:展示解説集第17集 海南地方における「家庭用品産業の歩み」-棕梠加工業から合成繊維加工業へ-(平成10年10月1日 海南市立歴史民俗資料館)、
その他、地元の方々にいただいた「しゅろの歌」の手書きやコピーの資料

参考までに以下は私なりの訳文です。

普通の棕櫚の木ではなく
唐棕櫚または ちゃぼ棕櫚は 葉が美しくまとまっているので 見栄えがよい
庭木や 鉢植えとして人気があり 普通の棕櫚の木よりも 値打ちがある
世のことわざにあるように 棕櫚を千本植えたなら
家の宝になるでしょう 富の元となるでしょう(「しゅろの歌」終わり)

普通の棕櫚の木と唐棕櫚との区別は、葉茎の姿形の違いから分かります。
普通の棕櫚木の茎は割と長いものが多く、葉は大きく葉先が折れてダラリと垂れ下がったようになっています。
唐棕櫚の茎は普通の棕櫚と比べ短いことが多く、葉先は折れずに真っ直ぐピンと広がっています。

「家の宝」というくだりについて。棕櫚の木1本から毎年10枚ほどの皮を剥くことができたそうなので、単純計算すると1000本の棕櫚木を植えると毎年10000枚の棕櫚皮が採れ収入になりました。
棕櫚木は10年程たち皮が採れる大きさに成長すれば、下草を刈る程度の世話のみで肥料や農薬もしませんし、林業ほど大掛かりで危険な作業もありません。他の作物に比べて管理が楽で諸費用がかからず、しかも高値で売れた時代(今の時代からみると「棕櫚バブル期」と形容したくなるほどの高騰期)がありました。広い農地が持てない山間地では棕櫚は貴重な収入源で、山の斜面に棕櫚の木をびっしり植えた「棕櫚山」の所有者は蔵のある大きな家を建てるほど裕福だったそうです。その頃は地域のほとんどの家が棕櫚産業に関りを持ち地域全体に活気があったそうです。