江戸時代の棕櫚箒-二世歌川豊国画-犬の草紙-嘉永3年/1850年
江戸時代の棕櫚箒-二世歌川豊国画-犬の草紙-嘉永3年/1850年

江戸時代の棕櫚箒をご紹介します。旅籠(はたご)屋で女中さんが食事を運んでいる絵の中に、棕櫚箒らしき座敷箒が描かれています。ちなみに旅籠屋とは、食事付の宿のことです。

女中さんが歩いている廊下の右側の部屋は客室で、紐で吊られた棒に宿泊客の着物が掛けられています。廊下の左側の部屋は布団や枕が積まれているので、寝具置き場・バックヤードのようです。積まれた布団の陰に棕櫚箒が無造作に立てかけて置かれています。箒に吊紐が付いていないので、吊り下げておくことが出来ないのかもしれません(もしくは吊紐の描き忘れでしょうか)。

おそらく、糸か紐で編み留めた簡素な作りの棕櫚皮長柄箒ではないかと思います。こういう絵を見ると、つい、どうやってこの箒を作っているのか作り方を考えてしまいます。師匠からも「作った事のない棕櫚箒やよその職人さんが作った棕櫚箒でも、実物を見たら同じものを再現して作れないとダメ」と言われてきたので、実物でなく「絵の棕櫚箒」でも構造や製法を具体的に考えたり作りたくなってしまいます。

いつか仕事とは離れた趣味として、江戸時代の絵と再現した棕櫚箒を年代順に並べて眺めてみたいと思っています。絵が描かれた年代と、描かれている内容の年代(設定)が異なる場合もあると思いますので、もっとしっかり勉強しないといけません。今後の楽しみです。

出典:江戸庶民風俗図絵/三谷一馬 著/旅籠屋の食事(一)(部分)
中央公論新社 発行/2007年/p.434-435/ISBN978-4-12-204834-8
二世歌川豊国 画 /合巻「犬の草紙」/(嘉永3年/1850年)